ニート「……」
少年「今日からここがお前の家だよ! 鳴いたら駄目だからね!」
少年「お母さんやお父さんにばれないようにしなきゃ。分かった?」
ニート「……」コクン
少年「思ったより大人しいなぁ。野生のニートってこんな感じなんだ」
少年「ええと餌……とりあえずキュウリあげとこう。はい!」
ニート「……」ポリポリ
今から十五年前、いわゆるニート税が導入された。
定職に就かず家に引きこもっている成人に対しての課税は波紋を呼び、社会問題にまで達した。
今では落ち着きを見せたものの、保護者に見捨てられ路頭に迷う青年は後を絶たない。
ナレーション『今夜はそんな若者たち、いわゆる「野生ニート」について議論します』
父「……そういえば一時期すごかったなぁ、野生ニート」
少年「!」ドキッ
少年「……俺生まれる前だから分かんないや」
母「分からなくていいわよ、一部の野生ニートが犯罪すれすれのことをしでかした時代なんて」
母「一部とはいえ、本当に怖かったんだから」
父「まあ確かに、死ぬしかない状況で自暴自棄になるのも分からなくないけど……」
父「今は職業安定所も発達したし、何よりニートの不法追放も犯罪になったからな」
母「あの頃はまさか、ペットショップでニートが買える時代が来るとは思ってなかったわ」
少年「じゃあ、ニートはいいペットなんだね?」
母「ええ、ちゃんとしつけられてればね……放し飼いや野生のニートには気をつけなさいよ!」
少年「……はい」
少年「おやすみ」
少年「……」コソコソ
ニート「……」
少年「ごめんね遅くなって。はいおにぎり」
ニート「……」モグモグ
少年「あんまり食べないんだね」
少年「ねえ、何才なの? テレビで見た野生ニートより若く見えるんだけど」
ニート「……」プイ
少年「あっ、無視するな!」
少年「もう……汚れてるし、とりあえずお風呂入る? こっそりね?」
ニート「……」コクリ
少年「そーっとね! うるさくしたら駄目なんだからな!」
少年「電気もつけられないけど……できるだけ急いで!」
ニート「……」シャワアアアア
少年「終わった? はいタオル」
ニート「……」フキフキ
少年「急いで部屋戻ろ! ほら早く!」グイ
ニート「……」スタスタ
少年「じゃ、また押し入れで……」
ニート「……」
少年「布団いる?」
ニート「……」フルフル
少年「そっか、おやすみ」
少年「はーい」
母「ちゃんと宿題するのよ」
少年「うん、いってらっしゃい」
バタン
少年「……ふぅ」トトト
少年「お母さんでかけたから出ておいで」
ニート「……」モソモソ
少年「はい、俺の分のチャーハン分けたげる」
ニート「……」モグモグ
少年「……何で何もしゃべらないの?」
少年「声が出ないとか?」
ニート「……」フルフル
ニート「……喋る必要がないから」
少年「しゃべったじゃん……ねえ、名前は? 年は?」
ニート「名前は言えない。歳は21」
少年「どうして言えないの?」
ニート「……親だった人に迷惑かかるから。分かる?」
少年「んー何となく」
少年「21才なんだ。いとこの兄ちゃんと同じくらいだね」
ニート「ふーん……」
少年「ねぇ、俺のペットになってよ! いいでしょ!」
ニート「俺はいいけど……そっちはいいの?」
少年「……お母さんにはバレないように、お願い! ご飯もちゃんとあげるから!」
ニート「……分かった」
少年「やった! じゃあ遊ぼ!」
ニート「……」
少年「!」
ニート「……」ササッ
少年「お、おかえり!」
母「あら、ちゃんと宿題終わってるのね? 今日はえらいじゃない」
少年「えへへ……」
少年「っ、ねぇねぇ俺お腹空いた!」
母「はいはい、今日はハンバーグ買ってきたからね」
ニート(……買ってきた、か)
ニート「……俺が食べたら、バレるんじゃないか?」
少年「大丈夫だって、ご飯炊くの俺の仕事だし」
少年「その代わりおにぎりしかないけど……いい?」
ニート「充分」モグモグ
少年「へへ……」
少年「嬉しいな、俺ずっと兄弟欲しかったんだ」
少年「お父さんもお母さんも仕事忙しくて全然家にいないし、友達もみんなずっと一緒にはいられないし」
少年「ねえトランプやろう! ばばぬき!」
ニート「分かった」
少年「まだバレてない、押し入れで飼ってるんだ」
男子「へーお前ニート飼ってんだ。いいなぁ俺もペット欲しい!」
男子「あ、じゃあ今度そのニート連れてきてくれよ! 一緒に遊ぼうぜ!」
少年「あーそれいいね! でもニート、あんまり外出たがらないんだよな」
友達「だってニートだもん」
少年「あ、そうか」
ニート「……おかえり」
少年「あれ、お昼ご飯? お母さん帰ってきたの?」
ニート「いや……俺が作った。暇だったし」
少年「へぇ! ニートって料理できるんだ!」
少年「いただきます!」モグモグ
ニート「……できると言っても、作ったの一年ぶりだけど」
少年「?」
ニート「何でもない……」
友達「ふぅ……図書館は涼しくていいな、本もいっぱいあるし」
友達「ん? あの人……おーい!」
同級生「……友達くん?」
友達「夏休みなってから会ってなかったね、久しぶり」
友達「同級生くんも読書? どんな本読むの?」
同級生「……特に。ただ家にいたくなかっただけだし」
同級生「友達くんは……何それ『ニートの飼い方』?」
友達「うん、少年がニート飼い始めてさ、それで」
友達「でもそれがちょっと変わったニートでさ、すごく若いんだ」
同級生「へぇ、それは珍しいね。ペットショップで売ってるようなニートって全部どうしようもないおじさんばっかりだもんね」
同級生「よっぽどクズで使えなかったとか、超不細工とか?」
友達「ううん、ひょろっとしてて体力はなさそうだけど……見た感じは普通のお兄さんなんだ」
友達「だから困ってて……暴力なんか絶対振るわなそうだし、お酒も煙草もしなそうだし、本に載ってる注意書きが役に立たないんだ」
同級生「……そうなんだ、じゃあいいニートなんじゃない?」
友達「そうだといいな……同級生くん、ニートに詳しいの?」
同級生「違うよ。ただ、ニート一歩手前の人間をたくさん知ってるだけ」
同級生「会ってみたいな、そのニート……」
友達「……?」
ニート「しない」
少年「ネット環境は危険、過剰な性描写を含む作品も危険……うちにはないや」
少年「うーん……確かにこの本、役に立たないなぁ」
友達「それくらいしか見つけられなくて……」
友達「ねぇ、ニートって本当にニートなの? 本当は違うんじゃないの?」
ニート「そう言われても……基準が分からない」
友達「うんと、確か働かない、学ばない、そのための練習もしない……」
ニート「それが条件なら完全にニートだ」
友達「そっか……」
少年「でも、とりあえず人間と同じようにしてればいいんだよな! それだけでも分かってよかった!」
少年「友達、お昼ご飯一緒に食べようよ。ニート料理してくれるから」
ニート「じゃあ二人分だな、ちょっと待ってろ」
友達「何だかお手伝いさんみたいだね」
ニート「……」
少年「うん分かった、じゃあお昼食べたら行く!」
少年「友達も一緒に来るよな?」
友達「うん! ……あ、同級生くんも呼んでいい?」
友達「こないだ話したら、ニートに会いたがってたんだ」
男子「よし、じゃあ俺たち四人とニートで秘密基地な!」
男子「じゃあまた明日!」
ニート「……」コクリ
少年「あんまり楽しそうじゃないなぁ。外嫌なの?」
ニート「あまり好きじゃない」
少年「野生だったのに」
ニート「……」
ニート(リード引っ張られると首輪が……)ゲホゲホ
男子「お、ニートだ! すげーほんとに飼ってんだな!」
同級生「……ほんとだ、友達くんが言ってた通りだね」
友達「ね? 全然違うでしょ?」
ニート「げほげほ」
同級生「体力なさそうなところはいかにもだけどね」
少年「ニート、こっちが男子でこっちが同級生」
ニート「……こんにちは」
男子「えと、こんちは」
男子「へー……俺、野生のニート見たの初めてだよ。ペットショップにいる奴しか見たことない」
同級生「今はすぐ、職業安定所行って社会人になるからね……それにしても、本当に若いんだ」
少年「21才だって」
友達「そんなに若いの? じゃあどうして……」
男子「そんなことよりさ、遊ぼうぜ! ニートせっかくだから鬼やってよ!」
友達「疲れた……」
同級生「僕も……」
男子「まったく、二人とも体力ないぞ!」
少年「そうだそうだ! ……でもニートが一番へばってる」
ニート「」
男子「大人のくせにー! あーでも確かに暑いな……プール行きたい」
ニート「……水浴びできるところなら知ってる」
ニート「この公園は広いから……そういうスポットがいくつか……」ゼェゼェ
男子「まじ? じゃあそこ行こうぜ!」
少年「元気だなー男子。みんな大丈夫? 歩ける?」
男子「水出てないじゃん」
ニート「ここに水道栓があるから、捻れば」キュイッ
シャアアアアア
少年「すごい! 噴水出た!」
ニート「噴水というかスプリンクラーだけどな」
男子「すげー涼しい! 今まで知らなかったよこんなの!」パシャパシャ
少年「わあい!」パシャパシャ
同級生「すごい、楽しそう。友達くん行こうよ」
友達「うん、でも服濡らしちゃうと……」
同級生「この天気じゃ乾くし、どうせ汗でびっしょりじゃん。変わらないよ」パシャパシャ
友達「……うん!」パシャパシャ
ニート「……」クス
ニート(俺は……日陰のベンチにいよう……)フラフラ
男子「じゃあまたな! 今日はすごく楽しかった!」
友達「僕も! じゃあね!」
同級生「また遊ぼうね」
少年「ばいばーい!」ブンブン
少年「……俺たちも帰ろうか、ニート」
テクテク
少年「リード、いらなかったかな」ジャラジャラ
少年「よく考えたらニート、犬みたいにどっか行ったりしないもんね」
ニート「でもニートの放し飼いは禁止されているから、必要だろうな」
少年「そっか……」ジャラジャラ
父「どんな風に?」
母「ちゃんと宿題も済ませてるし、食器洗ったりお風呂洗ったりもしてくれて」
母「何か欲しいものでもあるのかと思ったけど、『お母さんもお父さんも仕事忙しいから』って……」
父「そうか……成長したなぁ少年も」
母「ええ、これで安心してバリバリ働けるわ」
少年「ちょっと悪いな……」
ニート「本当は全部こなしたいけど、あんまりやりすぎても疑われるしな」
少年「にしても、ニートって何でもできるんだね!」
少年「料理もできる、お洗濯もお掃除もぱぱっとできちゃうし」
ニート「裏を返せば、それしかできないんだがな」
ニート「……おやすみ」
少年「おやすみ」
少年「お、お母さん! それなら俺買い物行っておくよ!」
母「あらそう? じゃあお願いしようかな」
母(父さんと私は会社で昼も夜も済ませちゃうから、減るとしたら少年のご飯の分と朝食……それだって買ってきた惣菜で済ませることも多いのに)
母(食べ盛りとはいえ、こんなに減るもんかしら?)
少年「……やっぱり、怪しまれてるかなぁ」
ニート「それなら、俺も外で食べてくるか?」
少年「でもニートお金ないじゃん、どうやって食べるの?」
ニート「……ゴミ箱に食べられるものがあるんだよ」
ニート「それか森だな……木の実とか、うん」
少年「……大丈夫だよ、ご飯の心配はしないで。俺が飼ってるんだし」
少年「そうだ、一緒に買い物行こう! 俺のご飯はニートが作ってくれるんだし、ニートが買い物した方がいいでしょ?」
ニート「でもニートは店ん中入れないぞ」
少年「あ」
ニート「買い物メモ、作っておくからその通り買ってくれればいい」
ニート「明日はチラシチェックだな」
少年「うん、行ってらっしゃい!」
少年「……ニート! お母さんでかけたよ!」
パラパラ
ニート「……ここのスーパー行けば、ひき肉と卵が安いな」カリカリ
少年「すごいね、ドラマに出てくるおばさんみたい」
ニート「そりゃどうも」カリカリ
テクテク
少年「暑いねー」
ニート「暑いな」
少年「俺だけじゃなくてニートも帽子被ればいいのに。お父さんの借りて」
少年「それに、髪の毛長いから暑いんだよ! 今度切ろう!」
ニート「確かにな……ニートになってから切ってなかったわ」
ガヤガヤ イラッシャイマセー
少年「じゃあちょっと待っててね」
ニート「行ってらっしゃい」
ニート「……ふぅ、日陰いるか」
主婦1「ねえ、あれ飼いニートじゃない?」
主婦2「あらほんと。首輪してるわ」
ニート(……俺のことか)
主婦1「今時あんな若いニートいたのねー」
主婦2「ほんと、今は親が頑張るから若いニート少ないのにね」
主婦1「そうそう、ニートなんておじさんと不細工ばっかりでいやよねぇー」
ニート「……」
主婦1「かわいそうねぇ、よっぽど家族に恵まれてなかったのかしら」
主婦2「親が一言、『うちの子は勉強してます!』とか言えば済むのにねぇ」
主婦1「そうそう周りが一言添えるだけでニートじゃなくなるのよね、おかしな制度だけど」
主婦2「そういえば今度の昼ドラ、それを逆手に取って浮気した夫をニートに仕立てる主婦の話なんだって」
ニート「違うとこ行こう……」
昼ドラ怖え支援
ニート「こっちこっち」
ニート「袋持つ」
少年「ありがと」
テクテク
少年「パピコ買ったんだ、片方あげる」
ニート「どうも」チューチュー
少年「おいしい」チューチュー
少年「……ニートはさ、どうしてニートになったの?」
ニート「……なりたくはなかったけど、させられたというか」
ニート「まあ追い追い話すよ」
少年「そっか……じゃあ待ってる」
少年「ただいまー」
ニート「とりあえず、冷凍食品しまうか」
少年「はーい。終わったらご飯作ってね!」
ニート「了解」
少年「うん! 俺サッカーボールとか欲しいな」
友達「屋根の壊れてるとこ、木の枝で塞いだ方がいいよね」
同級生「できればビニールシートとかあったらいいね」
少年「じゃあそれぞれいい感じのやつ探そう! ニートも探してね!」
ニート「分かった」
男子「それじゃ解散!」
ニート「はあ……暑い。子供は元気でいいな」
ニート「にしてもこの公園、本当に広いな……整備された遊歩道や遊具グランド抜けたら、こんな林があるとは」
ニート「……ん?」
親父「……ハァハァ」
ニート「……」
ニート「これだけ鬱蒼としてれば、不審者もいるだろうな。あいつも野生のニートか?」
親父「ハァハァ……子供子供……」シコシコ
ニート「」
ニート「完全に変質者だ。ここで遊ぶのは危ないな」
少年「あ、ニート! いいのあった?」
ニート「変な男がいる。危ないから違う場所で遊んだ方がいい」
少年「変な男? 何それ?」
ニート「とにかくみんな集めて」
友達「……トイレは、あっち……」
親父「案内してよ、一緒に行こうよ……」ハァハァ
友達「え、でも……」
男子「友達! どうだ何かいいのあった?」
友達「男子くん……!」
親父「ま、また子供が……ウッ」
男子「……知り合い?」
友達「ううん、知らない人……あっ!」ガシッ
親父「友達くんって言うんだね、どこ行くの? トイレに行こうよ、早く……そこの君も……」
友達「や、やだ離してください……!」
親父「また子供……っ!」
ニート「……あいつだ」
親父「くそっ、大人がついてんのかよ」ダッ
友達「……」ヘナヘナ
男子「友達! 大丈夫か?」
少年「大丈夫? 何もされなかった?」
同級生「学校に通報した方がいいね。とりあえず早く開けたところに行こう」
同級生「あの親父、ニートのこと保護者か何かと勘違いしたみたいだね」
友達「あ、ありがとう……怖かったよ……」
少年「ニートがいてくれてよかった」
ニート「……」
少年「いなかったら、俺たち今頃どうなってたんだろ……」
少年「きっと誘拐されて、殺されてたかも……ミノシロキンとか要求されてたのかな?」
ニート(たぶん違う)
少年「まさか毎日遊んでる公園で、あんな変なおじさんに会うなんて思わなかった」
少年「大丈夫かな、明日から……あの林に行かなきゃ平気かな?」
ニート「いつもいるところは大通りに面してるし、大丈夫じゃないか?」
ニート「他の子も大勢遊んでるし」
続き期待
ミンミンミン
男子「あ、ボール木に引っ掛かった」
少年「ニート、取れる?」
ニート「いやあれは無理だ」
友達「じゃあさ、ニートが誰かを肩車すればいいんじゃない?」
男子「じゃあ俺! 一番背ぇ高いしひっかけたの俺だし!」
同級生「肩車してもらいたいだけじゃん、子供だなぁ」
ニート「肩車できるかな……よっ、と」
男子「うっわ高ぇ! すげー!」
少年「早くボール取って!」
男子「分かってるって」ヒョイ
ニート「ふう……」
少年「ほら続きしようよ、男子パス!」
同級生「……僕、宿題するから帰る」
同級生「だってもう夏休みも半分過ぎたんだよ?」
男子「ぐ……そう言われると俺も……」
少年「でも俺は大丈夫! ちゃんとやってるし、ニートに教えてもらってるし!」
友達「えっずるい!」
男子「ずるい! ねえニート俺にも教えてよ宿題! 算数できないんだよ!」
少年「じゃあ明日さ、うちでみんなで宿題しようよ」
同級生「いいね、それ」
少年「決定! 明日の十時にうち集合ね! だから今日は同級生もサッカーしようよ!」
ニート(俺四人分教えるのかよ)
同級生「じゃあ明日よろしくね、ニートも」
少年「うん!」
少年「いいよねニート? だってニートすらすら解けるもん」
ニート「まあ小学生の宿題だからな」
ニート「でも絵は描けない」
少年「大丈夫、絵は明日はやらないよ」
テクテク
ニート(……宿題にサッカー、水浴び。そんな夏休みが俺にもあったなぁ)
ニート(今じゃただの思い出だけど、まさかまたこんな夏が来るなんて)
ニート「おやすみ」
ニート「……zzz」
子ニート『お母さんただいま!』
ニート母『おかえり、今日も元気に遊んできた?』
子ニート『うん、兄ちゃんたちと友達とサッカーした!』
子ニート『……お母さん、体大丈夫?』
ニート母『うん、今は……ゲホゲホ』
ニート母『ごめんね、一緒に遊んであげられなくて……』
子ニート『そんなことないよ……元気になってくれればそれでいい』
ニート母『ありがとう……ゲホゲホ』
ニート「っ……」ガバ
ニート「……夢か」
少年「どうしたの? なんか悲しそうな顔してたけど」
ニート「何でもない、みんなはもう来るか?」
少年「うん、そろそろ」
男子「ニート、ここどうやんの?」
ニート「ここは三角形の公式で……」
同級生「ニート、本当に使えるね」
友達「頭いいんだね」
少年「すごいだろ? 俺もう宿題終わるもん!」
少年「あ、そうだこの作文の宿題も手伝ってよ!」
ニート「……作文?」
少年「うん、身近な人から話を聞いてそれをまとめるってやつ」
少年「ニートの話聞かせて? それ作文にするんだ」
ニート「……」
ニート「それは、もっと違う人のを聞いた方がいい」
友達「少年、作文にしたらニート飼ってるってばれちゃうよ?」
少年「あ、そっか」
ニート「……」
友達「それじゃまたね! 今日はありがとうニート!」
ニート「……」フリフリ
少年「ばいばーい!」
少年「あ、こうこんな時間……急いでお風呂入ろう!」
カポーン
少年「背中洗いっこしようよ!」
ニート「分かった」ゴシゴシ
少年「くすぐったいよー……ねぇ、作文の話なんだけどさ」
少年「作文とか関係なしに……ニートの話聞きたいんだ」
ニート「……」ゴシゴシ
少年「話してくれるの待ってるって言ったけど……」
ニート「いいよ」ゴシゴシ
ニート「長くなると思うから、夜にな」
少年「おやすみー」
少年「……」
ニート「親、寝たか?」
少年「うん」
ニート「……俺は三人兄弟で、母親が病弱だったんだ」
子ニート『お母さん、また入院するの……?』
ニート父『ああ、でも心配ない。大丈夫だよ』
ニート母『すぐ帰ってくるから……もう寝なさい、おやすみ』
ニート兄1『おやすみ……寝るぞ』
ニート兄2『うん……子ニート、行こう』
ニート母『ごめんなさい、また入院費が……』
ニート父『心配いらない、ちゃんと俺が稼ぐから』
ニート父『ただ、子供たちには不便な思いさせるけど……』
ニート兄1『子ニートはほんと料理上手だな、すごいよ』モグモグ
ニート父『ああ、助かるよ……』
ニート兄2『料理だけじゃなくて、掃除も洗濯もできるしな!』
子ニート『えへへ……』テレテレ
ニート兄1『家計が苦しいのは分かってる。けどどうしても……』
ニート父『……分かった、行きなさい。母さんには話しておくから』
子ニート『……兄ちゃん、遠くに行っちゃうの?』
ニート兄1『うん、大学行っていい仕事に就いて、いっぱいお金稼いでくるから』
ニート兄1『それで母さんの手術代も出して、みんなで元気に暮らそう……』
子ニート『すごい! 90点以上ばっかり!』
ニート父『ニート兄1も頭良かったけど……お前もすごいなぁ』
ニート父『お前も、大学はどこに行くんだ?』
ニート兄2『……いや、俺は行かない』フイ
子ニート『兄ちゃん……?』テテテ
子ニート『兄ちゃん、本当に大学行かないの?』
ニート兄2『ああ、兄貴ほど頭良くないし、母さんの病気も悪化してるし……』
ニート兄2『俺は家に残って、お前の面倒見たり家のことしたりするからさ!』
子ニート『……』
子ニート『大丈夫だよ、家には俺が残るから』
ニート兄2『え?』
子ニート『ほら、俺が一番家事できるし、それに俺、兄ちゃんたちと違って勉強嫌いだし……』
子ニート『だから兄ちゃんは、俺の分も大学行ってよ!』
ニート兄2『……いいのか、本当に……』
子ニート『……』ペラ
『医者になるためのガイドブック ~本気で医者になりたい君のために~』
ビリビリ グシャッ
子ニート『……これでいいんだ、兄ちゃんたちの方が頭いいんだから……』
チーン パンパン
ニート『……母さん、今日も頑張るよ。そっちから見ててね』
ニート『お供え物交換しようっと』
ニート『今日は父さんが、大切な人連れてくるって言ってたし』
ニート『そっか、分かった』
ニート義母『……』
ニート義母(息子が二人自立したって言うから狙ってみたら……もう一人いたなんて)チッ
ニート『ニート義母さん、掃除は俺がやりますよ』
ニート義母『あら、親しくお義母さんって呼んでくれていいのに』
ニート義母『じゃあお願いしようかしら、私買い物行ってくるわ』
ニート『……』
ニート『何だかなじめないんだよなぁ』
ニート(俺がずっと家にいるつもりでいたから、家事は全部できちゃうし)
ニート(ニート義母さん、料理あんまり上手じゃないし掃除洗濯もできないんだよなぁ)
ニート『俺は……ずっと家にいるつもりで……』
ニート『今更進学もできないし、家事やってくつもりだったから就職も考えてなかったし』
ニート義母『でも私がいるでしょ? だから好きなことしていいのよ?』
ニート義母『病弱だったお母さんも亡くなって、晴れて自由じゃない』
ニート『っ、そんな言い方しないでください!』
ニート『……俺は、この家を守ります。そういう約束ですから……』
ニート義母『チッ』
バタン ドタドタ
警察『捕まえろ、ニートだ!』
ニート『え、えっ?』
警察『君のお義母さんからタレコミがあってな、義理の息子がニートだって』
ニート義母『ええ、だって専業主婦がいるのに家事手伝いは必要ないでしょ?』
ニート義母『父さんや兄弟は庇うでしょうから、いないうちに更生施設に連れて行ってください』
ニート『そんな……待ってくれ、これは!』
役人『今、職業安定所も混み合っててねー、しばらく自宅で待機ってことでいいかな』
役人『はいじゃあ帰ってー、あこれニート証明書』
ニート『……』
ニート『帰ってもニート義母さんがいる。また追い返されるのがオチだ』
ニート『それに一家にニートがいるとなれば……兄さんたちの仕事にも支障が……』
ニート『……迷惑かけるだけなら、もう戻れない』
ニート『死ぬか? どうせ死ぬなら、しばらく浮浪してもいいか……』
少年「……ひどい、ひどいよそんなの!」
ニート「そんなもんだよ、その気になれば誰でも簡単にニートにできる」
ニート「だから……どうした?」
少年「……っく、ひぐ……」メソメソ
ニート「少年が泣くことじゃないだろ」
少年「うん……でも、勝手に……」
少年「ねえニート、俺はずっとニートと一緒にいるよ」
ニート「……気持ちだけでも嬉しいよ
」i | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ |
| i 、ヽ_ヽ、_i , / `__,;―’彡-i |
i ,’i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三”―-―’ / .|
iイ | |’ ;'(( ,;/ ’~ ゛  ̄`;)” c ミ i.
.i i.| ‘ ,|| i| ._ _-i ||:i | r-、 ヽ、 / / / | _|_ ― // ̄7l l _|_
丿 `| (( _゛_i__`’ (( ; ノ// i |ヽi. _/| _/| / | | ― / \/ | ―――
/ i || i` – -、` i ノノ ’i /ヽ | ヽ | | / | 丿 _/ / 丿
‘ノ .. i )) ’–、_`7 (( , ‘i ノノ ヽ
ノ Y `– ” )) ノ “”i ヽ
ノヽ、 ノノ _/ i \
/ヽ ヽヽ、___,;//–‘”;;” ,/ヽ、 ヾヽ
主婦2「あらそうなの? でもあそこの奥さん、ペットは飼わないって言ってなかった?」
主婦1「でも少年君、よく市営の公園で飼いニートの鎖引いて遊んでるわよ」
主婦2「市営の公園って、あの広い敷地の公園よね? じゃあ今度見てみようかしら」
少年「あれ、同級生?」
同級生「やあ少年くん。ニートも一緒だね」
少年「他のみんなは? 一人で遊んでるの?」
同級生「ううん、ちょっと逃げてきた。家から」
同級生「この秘密基地さ、一年前にみんなで作ったんだよね。そのときのこと覚えてる?」
少年「うん、クラスの男みんなで作ったよね。今は俺たちしか使ってないけど」
少年「確か、家出したくなったらここに来い! とか言ってたね」
同級生「そう。んで僕ちょうど家出したくなったの」
同級生「……少年くんはいいな、ニートをペットにできて」
同級生「僕も、一緒に遊んでくれるペットがほしいな」
少年「……」
同級生「じゃあ僕帰る。気が晴れたから」
少年「あっ……」
ニート「……」
母「いやに計画的で無駄のない買い物してきたと思ったら、また無駄なく食材使ってるし」
母「いくらなんでも、少年一人でこんな家庭的な使い方できるはずがないわ」
母「誰かにお世話になってるのかしら……それにやっぱり、一人分の減り方じゃない」
ニート「……暑い」
少年「押し入れの中暑い? 一緒にベッドで寝ようか?」
ニート「いや子供用だからなそれ……床で寝させてくれ」
少年「うん、おやすみ」
ニート「おやすみ」
母「……今、少年の部屋で話し声しなかった?」
父「そりゃ少年がいるんだから」
母「じゃなくて、会話みたいな……それに一人じゃ話さないでしょ、電話もないし」
母「まさか……犬や猫でも拾ったんじゃ」
父「ああ、最近食材が減ってるって言ってたっけ」
母「ちょっと見てくるわ」
ニート「……涼しい」
母「少年? 開けるわよ?」ガチャ
ニート「……!」
母「え……」
ニート(まずい、隠れなければ……)
母「き、きゃああああ!」
少年「っ何なに?」ガバ
父「どうした!」
母「ひ、人が……人がいる!」
少年「ニート?」
ニート「っ」ダッ
父「あ、おい待て! ……窓から逃げられた」
父「警察に電話しろ! 少年無事か? 何もされてないか?」
ニート「……追いつかれるのも時間の問題か」
少年『確か、家出したくなったらここに来い! とか言ってたね』
ニート「……」
ガサガサ
ニート「……ふう」
ニート「秘密基地……屋根があるだけ森よりましだな」
ニート(どうせ、もう逃げきれないんだ……)
ニート「捕まったら保健所行きかな。いいか、いつ死んでもいいと思って始めた生活だ……」
ニート「!」
ニート「……こんな夜中に出歩くな」
同級生「いいの、家出したくなったんだから」
同級生「……ここさ、僕がしょっちゅう家出してくるもんだから、みんな来なくなったんだよね」
同級生「作ったときは十人も二十人もいたのに……違う秘密基地作ってそっち行っちゃった」
同級生「でも、あの三人だけは、それからもずっとここで遊んでくれるんだ」
ニート「……」
同級生「優しいよね、三人とも。大好きだよ僕」
同級生「だから何って話だよね……あのさ、上手く言えないんだけどさ」
同級生「……行かないでよ。死んでもいいとか、言わないで」
ニート「……お前も優しいな」
ニート「できるだけやってみるよ、今度は」
ニート「ただもう、みんなには会えないだろうから……よろしく伝えてくれ」バッ
同級生「……うん」
父「これで安心だな」
母「全く、野生のニート捕まえて部屋で飼ってたなんてどうかしてるわ!」
母「二度とやらないでよ! そして誰にも言わないでちょうだい!」
少年「……」
友達「見つかったら駄目って分かってたけど、こんな無理やりなんて」
同級生「でも、変に庇うようなこと言わないほうがいいと思う」
同級生「ニートが僕たちと遊んでたこと、誰にも言ってないってのはそういうことだろうし」
少年「……俺がいけないんだ。俺がちゃんと隠してなかったから……」
同級生「でも、ニートは少年くんに拾われてよかったと思ってるんじゃない?」
少年「ほんと?」
同級生「知らないけど、そう思ってた方が幸せじゃん……」
ニート「はい」
役人「じゃあ君に合う職業を見つけようか。すぐに」
ニート「……え、でも職業安定所は混み合ってるんじゃ」
役人「ああ、それは質の悪い役所がそう言って仕事を減らしてるだけだよ」
役人「悪いところに当たったんだね。同じ役人として申し訳ない」
ニート「……」
ニート「俺に合う仕事……」
役人「とりあえずペーパーテストをしてみようか」
役人「成績次第なら公務員も目指せるだろう、まだ若いからな」
主婦1「聞いた? 市営の公園に管理所ができたって話」
主婦2「聞いたわよ、あそこ市営って言っときながら全然管理されてなかったしね」
主婦1「不審者情報も多いし、子供もたくさん遊んでる割に危険だったものねぇ」
主婦2「これで安心ね。どうやら放置されてた噴水や林も整備されるみたいよお」
少年「……」
男子「懐かしいなぁ、この公園。小学生のころ、秘密基地作ってたよな」
友達「うん、でも確かにちょっと危ないね。管理所できて良かったよ」
同級生「噴水って、跡地じゃなかったんだね」
少年「うん……思い出すなぁ、噴水も林も秘密基地も、全部……」
主婦1「ああここよこの公園! 整備されれば街のシンボルになるわね!」
主婦2「ええ、市もそれを目指してるらしくてね。わざわざ市の職員を管理人にするんですって」
主婦1「あらすごい力の入れようじゃない! 楽しみだわ」
男子「ああ、何となく秘密基地に似てるよな見た目!」
少年「俺たちの基地をモデルに作ってたりして」
パッ
同級生「あ、電気ついた。もう管理人がいるんだ」
ガタガタ バタン
「よし、初めての見回り行くか」
少年「……え?」
男子「おい、あれ……」
友達「……そんな、本当に……?」
同級生「でも、間違いようはないんじゃない……」
少年「……ニート!」
ニート「……五年振りだな、元気してたか?」
ニート「もうニートじゃないんだ、ここの管理人になった……またよろしくな」
おわり。
面白かった
男の子に首輪つけて飼われたい。
乙
泣けた
少し書き貯めしますので残ってたら書きます。
あんなに時間いっぱいあったのに、心から幸せ・楽しいと思えた時間がなかったような気がする
今の仕事も3年目 頑張るか~
マジかおい
……おうふ